兄弟船の兄・宮本茂春さんは、借り上げの市営住宅を出た後、この夏からマンションで一人暮らしを始めました。津波で妻と両親を亡くし、60歳を過ぎて初めての一人暮らしです。
これまでは、箸の上げ下げもしたことのない人生。食事の用意も、買い物も、洗濯も、部屋の掃除も、すべてを妻に任せていた毎日でした。
「何もわからないから、最初は困ったね。お金の管理も妻に任せきりだったから、ATMの使い方どころか、キャッシュカードの暗証番号さえわからない。買い物に行くのも嫌だった。財布から小銭を出すのが恥ずかしくてね(笑)。これまでは、飲みに出掛けても、後から女房がお金を払いに行ってくれてたんだよ。だから、小銭なんてさわったこともなくてさ」。
まずは炊飯器の使い方を覚えました。毎日0.5合の米を炊き、3人の仏様分を取り分け、残りの1膳を自分で食べることにしています。洗濯機の使い方を覚えました。朝ベランダに干し、夕方前になると自分で取り込みます。電気ポットの使い方を覚え、給湯器の使い方を覚え……食事も自分で用意し、洗濯し、部屋の掃除をし、仏壇の花を取り替えます。
「1度、友だちが来てくれたんだけど、酔っぱらって片づけをしないまま寝てしまったことがあって。起きたら部屋の臭いがひどくてね。それからは“もう1杯飲みたい"の1杯を我慢して、ちゃんと片づけをしてから、寝酒の1杯をやるようにしてるんだ」
宮本さんが暮らす部屋は、男の一人暮らしとは思えないほど、部屋はきっちり片づけられ、台所も整理整頓されています。今探しているのは電子レンジ。「ガスコンロだけはどうしても扱えなくてさ。今の電子レンジは、焼いたり、蒸したり、何でもできるらしいから。そろそろ焼き魚が食べたくてね」
スーパーに行くと、決まってみんなが同じ言葉を掛けてきたそうです。「大変だね」と。最初の頃は、そう言われることが嫌で仕方なかった。でも、今では少しずつ受け流せるようになり、愛想を振りまくこともできるようになったといいます。
「今でもゴミ出しは面倒だな」と話す宮本さん。食事をつくる。洗濯をする。部屋の掃除をする。これからは、毎日の生活を自分の手で切り盛りしていかなければ。「俺は大丈夫だから」。焼酎を飲みながら過ごす秋の夜。目線の先にある部屋には、震災で亡くした妻と両親が眠る仏壇が置かれています。
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