紀子さんには、高校1年生の洋輝くんと、中学2年生の勇輝くん、2人のお孫さんがいます。孫たちは、紀子さんのことを、親しみを込めて「のんのん」と呼んでいます。
仙台市内で一人暮らしをしていた紀子さん。震災当日は、電気も消えて真っ暗になった部屋の中で、毛布にくるまりながら、一人で心細い夜を過ごしたといいます。翌朝、携帯電話もつながらず、不安を抱えたままの紀子さんを救ってくれたのは、玄関先から聞こえてきた孫たちの声でした。「のんのん!大丈夫?」。
迎えに来てくれた孫と一緒に、娘の亜希子さんが暮らす家へ。久しぶりの娘との生活、初めての孫との暮らしが始まりました。食べ物がなかなか手に入らない毎日。朝早くから家族で店先に並ぶ。復旧のメドが立たない水道。孫たちとポリタンクを持ち、給水の順番を待つ。電気の点かない真っ暗な部屋の中。ろうそくの灯りをみんなで囲んで暮らす……震災をさかいに降りかかった一つひとつの出来事は、厳しく、大変なことばかりだけれど、それでも、紀子さんはこう感じていたといいます。
「こんなことを言ってはいけないのかもしれないけれど、そんな毎日が楽しかった。娘や孫たちと暮らす日々がくるなんて思いもしませんでした。孫に食事をつくってあげたり、テスト勉強の手伝いをしたり、時には年がいもなく孫とケンカをしたり。働く娘から『お母さん、助かるよ』と言ってもらえることもうれしい。私も誰かの役に立っている。そう実感できることが、とても幸せなんだと思います」(紀子さん)
娘の亜希子さんも、そんな母の頑張りに、とても感謝しているようです。
「母が来てから、夕飯の準備も母がしてくれて、みんなが帰ってきてすぐに食事ができるように準備してくれている。理想の食生活です(笑)。これまでも母に感謝していたけれど、今、やっと本当の親孝行ができているのかな、と思っています」(亜希子さん)
洋輝くんと勇輝くん、2人の孫たちは、同じ夢に向かって駆け出しています。その夢は「プロゴルファーになる」こと。兄の洋輝くんは、平成23年度全国高等学校ゴルフ選手権東北大会個人の部で優勝。弟の勇輝くんも、兄に負けじと日々練習に励んでいるようです。「プロになってマスターズで優勝したい」と洋輝くんが夢を語れば、「ぼくもマスターズで優勝する!」と勇輝くん。仲の良い兄弟は、同じ夢に向かって走る同士であり、最も身近なライバルです。
娘や孫と過ごす、かけがえのない毎日。あの日から、思いがけない方向に人生が変わっていった。学校の部活を終えてから、さらに練習場で練習を重ねる孫たち。家族のために、必死に働き続ける娘。みんなのために、紀子さんは今日も夕飯の支度に取りかかります。「のんのん、ただいま!」と言ってもらえる喜びと、「おかえり!」と声を掛けることができる幸せを抱きしめながら。
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